ベトナムのレンタル工場とは? ~ベトナム進出する日系企業の動向~

■レンタル工場とは

日本ではあまり耳慣れない「レンタル工場」ですが、アパートの賃貸契約と同様に、工場団地内に工場の建屋が既にあり、それをリース契約するというものです。

【レンタル工場のメリット】

①投資リスクの軽減/レンタル工場は、最低3年契約で1年ごとの契約のため、工場の拡張や事業撤退 等、変化の速いビジネス環境に対応しやすく、工場新設に比べて投資リスクも軽減できます。

②工場新設のコストダウン/基本的な工場の枠組みは整備されているため、建設費用がかかりません。

③稼働開始までのリードタイムを短縮/基本設備は付帯されているため、工場内に設備・機械を搬入していただくことで、すぐに稼働開始可能となります。

【レンタル工場の基本設備】

レンタル工場の各ユニットには、事務所、トイレ、水道、電気が標準装備とされています。(スプリンクラーは一部を除いて標準装備) 床の耐荷重は2t/㎡、天井高は7.5メートル、搬入搬出口は正面側に1か所となっており、搬入搬出口前の道路幅は約10Mのため大型車両での搬入出もできます。また、原状復帰を条件に追加工事でカスタマイズしていただくことも可能です。(クレーン設備追加、集塵機の追加、床の耐荷重の補強[床にピットを掘ることも可])

 

■工場開設・移転先にベトナムが選ばれる理由

主な要因としては、従来からの「米中貿易戦争」や今回のコロナ禍の影響で、中国における生産活動のデメリットやリスクが大きくなり、政治的リスクが少なく人件費が中国の約3分の1で、距離的にも中国に近く米国と良好な関係を築いているベトナムに、生産の比重を徐々に移行するという企業が増えていることがあげられます。

【ベトナム工場進出におけるポイント】 ※2021年現在

①活力あふれる労働力/人口:約9700万人、労働者人口:77%、平均年齢:32歳

②自由貿易協定による制限の緩和/ASEAN、日本、韓国、中国、香港、インド、オーストラリア、EUなど16の国・地域と締結(2020年11月、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定、15カ国で署名)

③圧倒的低コスト/平均賃金:約237USD/月、電気利用料:約0.06USD/kwh

④着実な経済成長/GDP7.02%(2019年)

⑤海外企業向けの低率法人税/海外企業向けの法人税が2年目まで非課税、4年目まで10%、工業団地ではその他優遇制度も有(※ハイフォンは、4年免税、9年減税)

⑥安定した政治情勢/共産党一党体制による安定政治

 

■ベトナムに進出している日系企業

日系企業の対越投資は、過去に2度の投資ブームがあり(1995~1997年と2005~2008年)、主に大規模製造業の進出がメインでした。リーマンショック後の2009年以降徐々に回復し、2011年以降第3次投資ブームを迎えています。第3次ブームの特徴は、中小規模の製造業や小売・飲食などのサービス業の割合が増えていることです。レンタル工場付き工業団地の開発が進み、初期投資を抑えて進出が可能になったことが大きな要因です。

これまでにベトナムに進出している企業の傾向は下記のとおりです。

北部:精密機械系が多く約8割が電子部品、約2割が自動車部品。

(キヤノン・京セラ・トヨタ・ダイキン・テルモ・デンソー・パナソニック・日立・ブリジストン・富士ゼロックス・ブラザー・ホンダ・ヤマハ等)

南部:消費財系、食品系の内需型が多く見られます。
(味の素・イオン・いすゞ・エースコック・江崎グリコ・大塚製薬・キューピー・キリン・湖池屋・サッポロビール・スズキ・ファミリーマート・ミニストップ等)

 

■レガーレが代理店をしているBWIDとは

レガーレでは、約360か所あるベトナムの工業団地の中でも「BW Industrial」の日本側代理店として進出・移転計画から視察、運用開始まで支援しています。「BW Industrial」は、ベトナム最大規模のレンタル工業団地のデベロッパーです。建設及び開発案件に対し40年におよび100億ドル以上の投資実績を持つ元国営のベトナム大手不動産会社「BECAMEX」と、全世界で成長投資に注力している大手プライベート・エクイティ会社である(投資企業数870社、運用資産580億ドル超)米国「WARBURG PINCUS」の合弁会社で、ベトナム国内最大規模のレンタル用地を所有しており、主要産業都市に14の敷地を確保し、今後さらに開発を計画、推進予定です。これらの豊富な資金力、ベトナム政府との強固な関係により、進出企業を強力にサポートすることが可能となります。現地には、ジャパンデスクがあり、弊社と連携しながらきめ細かなサポートが可能です。

 

 

売れたものを売りますか?売れるものを作りますか?
~海外進出の落とし穴~

私たちが、日本企業の海外進出を支援するにあたり大切にしていることは、お客様が海外市場に対して「覚悟を持っている」ことです。海外進出をされる日本の企業と日本に進出される外国の企業を比較して、大きな違いを感じるのがこの部分です。資金面などの制約条件の違いを考慮する必要がありますが、外国企業は日本市場で成功するためにできることは何でもチャレンジする意識が高いと感じます。

■海外進出を検討する際によくある勘違い

厳しい競争にさらされている日本市場で競争するよりも海外市場の方が成功する確率が高いと安易に期待してしまう傾向があるようですが、以下のような場合には、改めて現状認識を疑ってかかることが必要と考えています:

▶日本である程度売れている商品だから、海外でも売れるはずと考える

⇒生活・文化が異なる海外では、日本人の感覚では測れないことが多くあり、日本市場での成功体験は通用しないと考えた方が良いでしょう

▶海外で代理店が見つかれば売れるはずと考える

⇒海外市場では、知名度もなく現地の既存品・サービスと競合している場合がほとんどです。差別化しないまま参入しても多くの製品・サービスの中に埋もれてしまい選ばれる機会を失うでしょう

▶市場レポートや数回の現地視察のみで成功の可能性がないと判断する

⇒日本市場の売り方で成功すると考えていた場合は、その視点で成功可否を判断しがちです。日本市場においてもトライ&エラーを繰り返してビジネスを大きくしてきたように海外市場でも詳細市場分析に基づく仮説を立てチャレンジする姿勢が必要でしょう

■海外進出は市場拡大ではなく市場開発

このようについ勘違いに陥りやすいのは、日本国内での成功体験や根拠のない期待があるからではないでしょうか。日本市場で売れたもの・サービスが海外の市場でも売れるという保証はないはずです。既存商品・サービスを提供するチャネルを増やすアプローチは、類似市場において拡大を目指す場合に有効ですが、生活・文化が異なる海外は日本とは異なる市場として捉え、現地に適したもの・サービスを作るアプローチをとる必要があります。

つまり、海外進出を、市場の拡大としてではなく市場の開発として捉えて、顧客接点を構築することが最初の重要なステップと言えます。構築した顧客接点を基盤として活かすことで、商品・サービスの魅力を伝え、フィードバックを得るための仕組みを作ることができます。そして、その仕組みを活用することで、ターゲットの顧客層へその魅力を伝え、フィードバックをインプットとして市場で売れる製品・サービスに育てていくことが可能となります。

■海外市場で売れるものを開発するために

市場開発では、顧客接点を持つために、可能な限り代理店を通じた販売ではなく、直接販売を行った方が良いでしょう。現地での販売会やテストマーケティングなどを通じて、継続的にコミュニケーションできる顧客を増やすことが容易になるからです。

また、商品・サービスの魅力を伝えていくためには、まず今の日本市場でのビジネスがどういう顧客にどのような理由で受け入れられているのかを知り、新たな市場に対して魅力を説明できるように改めて再定義する必要があります。

そして、海外市場でどのように商品・サービスとその魅力を伝えることができるか仮説を立てます。この仮説を構成する前提条件を明確にして検証できるように指標を設定することで、市場でどのように受け入れられ、販売を拡大するために何が必要なのかを分析することができるようになります。

このように海外進出では、海外市場をこれまでとは異なる市場とみなして、市場開発のアプローチをとることが肝要です。その中でも、「顧客接点」、「魅力の再定義」、「仮説検証」が成功に向けた重要なポイントとなります。

 

コロナ影響下でのベトナムレンタル工場市場動向の変化
『現地からの速報』

世界各国でコロナウィルス感染者の増加が続く中、ベトナムはその封じ込めに成功していて、7月までは死者ゼロ、国内感染90日間ゼロという記録を打ち立てていましたが、7月にダナンでクラスターが発生し、8月21日現在で累計の感染者数は1,007人で死者数が26人となっています。ダナンでのクラスター発生後に、ダナンを始めハノイ・ホーチミンといった大都市はバー・クラブなどの営業停止措置が取られていますが、レストランは通常通りの営業を続けています。

■コロナ禍でもベトナム工場進出は堅調

ベトナムでは3月後半から外国人の入国制限措置が取られているため、各工業団地への海外からの視察がままならず、どの工業団地も営業的には苦戦を強いられています。しかしながら、ベトナム国内の拡張案件があり、このコロナ禍の最中でもBW Industrial Development JSCでは新規の契約を数件獲得しています。主な要因としては、従来からの「米中貿易戦争」や今回のコロナ禍の影響で、中国における生産活動のデメリットやリスクが大きくなり、政治的リスクが少なく人件費が中国の約3分の1で、距離的にも中国に近く米国と良好な関係を築いているベトナムに、生産の比重を徐々に移行するという企業が増えていることがあげられます。また、先頃日本政府が発表した令和2年度補正予算案で、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」に235億円の補助金を用意していることも、中国からベトナムへの生産移管を後押ししています。

■コロナ禍で見られる進出動向の変化

コロナ禍前は日系企業の場合は、レンタル工場に問い合わせがあるのは中小企業がほとんどで、500㎡~1,500㎡程度の小規模の工場の需要がメインでした。3,000㎡以上の工場の場合は、レンタルではなく土地を取得して自社工場を建設するというパターンが一般的でしたが、今回のコロナ禍の影響で中長期的な見通しを立てることが困難になったこともあり、リスク軽減を考慮し、3,000㎡以上の大型規模の工場でもレンタルからスタートする大手企業が増えてきました。レンタル工場の場合は3年リースからスタートでき、最悪の場合でも撤退が容易で、損失を最小限に留めることができるので、まずはレンタル工場で3~5年間操業し、ベトナムでの生産事業が軌道に乗った段階で自社工場を建設するというパターンが増え始めています。

コロナ影響下での世界各国の経済状況は未だ混乱の中にありますが、日本企業のグローバル化の歩みを止めるわけにはいきません。日本企業の進出先最有力候補であるベトナムの、今後のレンタル工場市場の動向に注目していきます。

[ご参考webサイト] BW Industrial Development JSC 

 →https://www.bwidjsc.com/ja